CTO・技術責任者の視点から「技術戦略を実行するための人材供給と開発体制」を掘り下げる専門メディア TECH STRATEGY SHIFT ー技術戦略ー » 人材戦略 » AI人材不足とは?生成AI時代に技術戦略が進まない理由

AI人材不足とは?生成AI時代に技術戦略が進まない理由

目次
AI活用を推進しようとした企業が最初に直面するのは、技術や予算の問題ではなく、担い手の不在です。AI人材不足は、採用が難しいという現場の悩みを超えて、技術戦略全体の実行を止める構造的な要因になっています。

AI人材不足が技術戦略を止める理由

AI人材不足の深刻さは、求人が集まらないという話に留まりません。それが、技術戦略の実行そのものをどう止めてしまうのかという観点から理解する必要があります。

AI活用がPoCで止まる

生成AIの活用や業務へのAI組み込みを推進しようとする企業では、概念実証(PoC)の企画自体は立ち上げられても、それを実装・検証できる人材がいないために、PoCが完了しないまま停滞するケースが少なくありません。

野村総合研究所の調査(2025年)では、企業の57.7%が生成AIを導入済みと回答する一方で※1、総務省「情報通信白書」では企業の70.3%がAI導入の課題として「リテラシー・スキル不足」を挙げています※2

多くの企業でAIへの関心と投資意欲は高まっているにもかかわらず、実行を担える人材が確保できず、PoCの段階で止まってしまうという構図が浮かび上がります。

データ基盤整備まで人材が回らない

AI活用の前提となるのは、精度の高いデータ基盤の整備です。しかし、AIモデルの開発・運用に直接関わる人材の確保でさえ難しい中で、その土台となるデータエンジニアリングやデータ品質管理まで人員を配置できている企業は多くありません。AI人材の不足は、AIそのものを扱う領域だけでなく、AI活用を支えるデータ基盤の整備にも連鎖的に影響を与えます。

AI人材へ業務が集中し属人化する

限られたAI人材が確保できた場合でも、その人材に業務が過度に集中しやすくなります。設計・実装・運用・社内への展開支援まで、AIに関するあらゆる判断がその人材に依存してしまう状態は、「属人化」の問題と同じ構図です。AI人材の属人化は、その人材が離職した場合の組織的なリスクを高めるだけでなく、AI活用の拡大スピードそのものを一人の人材の処理能力に依存させてしまうことにもなります。

なぜAI人材不足は解決しないのか

企業がAI人材の確保に苦戦し続ける背景には、需要と供給の両面から構造的な要因があります。

AI需要が急速に拡大している

IPA「DX動向2025」の調査では、DX推進人材(AIを含む)が不足していると回答した企業は85.1%に達しています※3。同時に、経済産業省の推計では、AI人材の需給ギャップは2030年に最大12.4万人にのぼるとされており※4、さらに長期的には2040年時点でAI・ロボット利活用人材が339万人不足するという試算も公表されています(経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」2026年3月)※5

AI需要の拡大スピードが、人材の育成・供給のスピードを大幅に上回っているのです。

求められるスキルが高度化している

AIという領域は均質ではなく、機械学習モデルの開発・チューニング、MLOpsによるモデルの本番運用、生成AIのプロンプト設計・評価、AIを支えるデータ基盤の構築など、求められる専門性は多岐にわたります。

さらに、生成AIの急速な進化により、一年前の知識が陳腐化するほど技術変化のサイクルが短くなっており、常に最新の知識を保有する人材の希少性が高まり続けています

国内市場だけでは供給が追いつかない

国内のAI人材育成は、教育機関でのカリキュラム整備や企業内リスキリングを通じて進められていますが、需要の拡大スピードに追いついていないのが現状です。政府は2030年までにAI人材25万人を育成するという目標を掲げていますが、前述の通り、そのタイミングでも約12.4万人の需給ギャップが残る見通しです。

国内市場だけを人材供給源として頼り続ける限り、この構造的な不足は解消されにくい状況にあります。

AI人材不足を採用だけで解決するのは難しい

こうした構造的な不足を前に、採用活動の改善だけで解決しようとするには限界があります。

AI人材の獲得競争はさらに激しくなる

AI人材は、IT業界の中でも最も競争が激しい採用市場にあります。GAFAMをはじめとするグローバルIT企業が国内でも積極的な採用を行っている中、日本の企業はまず待遇面での競争を強いられます。

採用市場でのAI関連求人数は2017年度比で約6.6倍に拡大しており、AIエンジニアの平均年収は日本全体の平均年収を31〜71%上回る水準にあるとされています※6。このような市場で、採用活動の巧拙だけで必要な人材を確保し続けることは現実的ではありません

社内育成だけでは時間がかかる

AI領域での実務能力を持つ人材を社内育成するには、基礎的な数学・統計の理解からモデル開発・MLOpsまでの幅広い知識体系が必要であり、実践的な戦力として機能するまでに相応の期間がかかります。技術戦略がいま求めているスピードと、育成が成果を出すまでの時間軸には、構造的なずれがあります。

必要なのは人材供給を広げる視点

採用改善と社内育成は重要な施策ですが、それだけでは構造的な不足への対処として不十分な場合があります。海外のAI人材市場、外部の専門パートナーとの連携、国内外を含めた複数の供給源を組み合わせる視点が、AI人材不足という構造的課題に向き合うための前提になります。

技術責任者が考えるべきAI人材戦略

AI人材不足という制約を前提とした上で、技術責任者がどう戦略を設計するかが問われています。

技術戦略から必要なAI人材を逆算する

「AI人材を採用したい」という動機から始めると、どのようなスキルがどの業務に必要かが曖昧なまま採用活動が進みがちです。まず自社の技術戦略において、どのAI活用を、いつまでに、どのような体制で実現するかを明確にし、そこから必要な人材像を逆算して定義することが出発点になります。

AI人材と一括りにせず、MLエンジニア、データエンジニア、MLOpsエンジニア、プロンプトエンジニアなど役割を分解して整理することで、採用・育成・外部調達の設計精度が上がります。

開発体制全体でAI人材を活用する

少数のAI人材で多くのプロジェクトを支えようとすると、属人化と過負荷が避けられません。AI人材が専門的な判断に集中できるよう、周辺業務を担うチームや外部パートナーとの分業体制を設計することが重要です。AI人材の採用よりも先に、その人材が組織の中でどう機能するかを設計しておくことが、確保した人材を最大限に活かす前提になります。

国内外を含めた人材供給を設計する

インドをはじめとするグローバルな人材市場には、AI・機械学習・データエンジニアリングの専門性を持つ人材が豊富に存在しています。国内採用という単一のチャネルに依存せず、海外人材の活用や、グローバルな人材供給設計という視点をAI人材戦略にも組み込むことが、構造的な不足への現実的な対応策になります。

AI人材不足は、採用の問題である前に、技術戦略全体の課題です。必要な人材像の明確化、開発体制の設計、供給源の多様化という3つの視点を組み合わせることで、AI活用を推進できる体制を継続的に維持できるようになります。

まとめ

AI人材不足が技術戦略を止めるのは、採用活動の問題ではなく、需要と供給の構造的なギャップによるものです。解決には採用改善だけでなく、開発体制全体の設計と国内外を含めた人材供給の多様化という視点が求められています。