グローバル戦略と聞くと、海外市場への進出や海外拠点の設立を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、技術戦略の観点から見れば、グローバル戦略は「世界から技術競争力を確保する戦略」として捉え直す必要があります。
まず、グローバル戦略という言葉への誤解を解くことから始めます。
AIやクラウド、データエンジニアリングといった技術領域では、競争はすでに国境を越えています。GAFAMに代表されるグローバルIT企業は、優秀なエンジニアを世界規模で採用し、世界の開発リソースを活用しながら製品・サービスを進化させています。日本国内に閉じた開発体制で、こうした競合と同じ技術領域で戦おうとすること自体に、構造的な限界があります。
Linux Foundationが2025年に公表した「日本の技術系人材の現状レポート」では、日本がインフラの近代化と技術系人材の確保の両方で「他の地域に著しく遅れをとっている」ことが明示されています※1。技術競争がグローバル化する中で、人材という資源を国内市場だけに限定することは、競争力を自ら制約することにつながりかねません。
技術人材の獲得競争は、もはや一国の中だけで完結しなくなっています。エンワールド・ジャパンが2026年3月に公表した調査によれば、グローバル人材の不足を感じていると回答した割合は、日系企業で75%、外資系企業で88%に達しており、グローバル人材の獲得競争は「極めて激しい逼迫した状態」にあると指摘されています※2。
求める人材が国内市場にいなければ、その人材が存在する市場へアクセスすることが、現実的な対応策になります。
日本企業の海外進出に関するビジネスエンジニアリングの調査(2026年)でも、情報システム・デジタル技術・DXの課題として「人材が不足している」が2022年以降3回連続で1位(約6割)となっており、「AIなど先端的な技術の利活用が不十分」も41.4%で2位に挙げられています※3。
この調査では、「日本本社側には、海外の優秀なAI・IT人材の知見を吸い上げる視点を持ち、共同で活用を進める意識改革が求められる」と指摘しており、グローバルな人材・知見へのアクセスを戦略的に位置づける必要性が、実態調査からも浮かび上がっています。
グローバル戦略が必要な理由は、海外市場に売上を求めるためだけではありません。技術競争力を維持するための観点から整理します。
AI・クラウド・セキュリティといった高度技術領域の人材は、国内市場において深刻な供給不足が続いています。この不足は、国内企業が採用を工夫するだけでは解消しにくい構造的なものです。
一方で、インドをはじめとするグローバルな人材市場には、高度技術領域において豊富な専門人材の供給があります。人材確保の競争において、「国内市場のみ」という制約を外すことが、高度IT人材を獲得できるかどうかの分岐点になります。
生成AIの普及とともに、プロダクト開発のスピードが競争優位を決める局面が増えています。開発スピードを上げるためには、必要な専門人材を必要なタイミングで確保できる体制が前提になります。
国内採用だけでは採用に数ヶ月かかることも珍しくない中、グローバルな人材市場へのアクセスがあれば、供給源と調達手段の両方を広げることができます。開発スピードは技術選定だけでは決まらず、実行できる体制があるかどうかに直結します。
技術戦略を継続的に実行し続けるには、単発の採用活動ではなく、継続的な人材供給の設計が必要です。国内採用・社内育成・外部パートナーという手段に加えて、グローバルな人材市場へのアクセスを持つことで、人材供給の選択肢が広がります。選択肢が広がることで、採用市場の変動や特定領域の人材不足といったリスクへの対応力も高まります
。グローバル戦略を「海外で何かをする戦略」ではなく、「技術戦略を実行するための手段として世界規模で考える戦略」として位置づけ直すことが重要です。
技術ロードマップに描いた計画を実現するために、いつ、どのスキルを持つ人材が必要かを起点に、国内外を含めた人材供給の設計を行うことが、グローバル戦略を技術戦略に接続する実践的な出発点です。
「グローバル採用を試みる」という発想ではなく、「技術ロードマップの実行に必要な人材をグローバルに確保する」という順序で考えることで、グローバル戦略は技術戦略の一部として機能し始めます。
国内と海外の人材が一つのチームとして機能するためには、開発プロセス・品質基準・コミュニケーションの仕組みを共通化することが必要です。海外人材を「外注先」ではなく開発体制の構成員として設計することで、技術的な意思決定の一貫性が保たれ、グローバルな開発組織として機能します。体制設計を国内前提で考え、海外を後から付け足す形では、機能するグローバル開発体制は作れません。
グローバルな人材・知見へのアクセスは、一時的な補填ではなく、継続的な技術力維持のための仕組みとして設計することが重要です。海外の高度IT人材と継続的に協働することで、最新の技術動向への感度が組織全体に広がります。
技術は絶え間なく進化しており、その変化についていくためのリソースを世界規模で確保することが、技術力を継続的に維持する条件となります。
グローバル戦略を技術戦略の一部として捉え直したとき、技術責任者が具体的に考えておきたいことがあります。
採用市場が厳しい高度技術領域ほど、国内採用という単一のチャネルへの依存リスクは高まります。インドをはじめとするグローバルな人材市場に、AI・クラウド・データ領域の専門人材が豊富に存在していることを前提に、人材供給の設計を考え直すことが、技術戦略の実行可能性を高める第一歩となります。
海外人材を「コスト削減の手段」として扱うのではなく、技術戦略を実行するためのグローバルな開発組織の一員として位置づけることが、次の競争優位を生む選択肢になります。
EOR(雇用代行)など、現地法人なしに海外人材と継続的な雇用関係を結べる仕組みも整ってきており、グローバルな開発組織の構築は、大企業だけの選択肢ではなくなっています。
グローバル戦略とは、単なる海外市場進出ではなく「技術戦略を実行するための人材を世界規模で確保する戦略」のこと。国内のIT人材不足や激化する技術競争を突破するには、国内採用だけに依存するリスクを脱却する必要があります。
技術ロードマップから逆算して海外の高度IT人材やEORを活用し、国境を越えた開発体制を築くことが持続的な競争優位につながります。